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出られない部屋 今日のような涼しい夜に、ビール片手に野球観戦をする。こんなにも幸福を感じる楽しみはない。 俺の部屋はありふれたアパートのありふれたワンルームで、小さなタンスと、テレビが置いてある。だが、一つだけ場違いなものがある。 老朽化したデスクだ。備え付けの家具である。 このアパートは、双葉学園が学生のために用意しているアパートの中では古参のものだ。唯一の備品である机はかなり使い込まれ、年季が入っている。最初の学生から俺に至るまで、何人の人間が使用したことだろう。 このデスクは癖が強く、右の引き出しの鍵が常時かかっていて、開かないことが特筆として挙げられる。鍵を誰かが紛失したらしい。 無理に中を開けようとすると机全体がギシギシ悲鳴を上げ、下手なことはできなかった。何せ備品だ。余計なことをして破壊して、痛い出費に繋がることだけは避けたかった。俺は引き出しの中身には興味が無かった。 『三振! 山本昌、勝ち投手の権利を手にして交代です』 テレビ中継は横浜スタジアムの、対中日戦の試合だった。 五十三歳にして六回を投げきり、ベンチに下がっていく背番号三十四。直球はこの歳にして力があり、よく伸びる。一体いつまで現役生活を続ける気なのか。 冷えた風が吹き込んできて、表の木々がさあっと囁いている。焼き鳥の最後の一本を食べ、ちびちびと苦くなったビールを口にした。 それから中継ぎが打線に捉まり、逆転を許すどころか代わるたびボコボコにされたので見るのを止める。仰向けに寝っころがる。 そのまま目をつむると、すぐにテレビの音声が遠くなっていった。 大きなくしゃみをして目が覚めた。起き上がる。 鼻水まで垂れた。外からは冷たい空気が入り込んでおり、腹が出ていたせいか調子が悪い。テレビもいつの間にか放送が終了している。 とりあえず便所に行きたくて立ち上がった。だが、そのとき強い眩暈がして足がもつれてしまう。 そのまま備品のデスクに突っ込み、膝が引き出しに直撃する。するとふとした拍子で、右の引き出しが開いてしまったのだ。 酔いが一気に吹っ飛ぶ。膝の痛みがどうでもよくなったぐらいだ。鍵が破損してしまったのである。 「やっべぇ」 よその家で、立派な壺でも割ってしまったときのような焦り。何せ自分の物ではないのだ。 壊れてしまったものは仕方ないので、謎に包まれていた中身をのぞいてみることにする。引き出しは想像以上に重たく、手首に筋が浮き上がるぐらい力を入れて引っ張り出すことができた。 すると、茶色く日焼けした紙が出てきたのだ。 それも一枚ではない。五枚ほど重なっていた。 ぼくはAと言います。ふたば学園にかよっていた小学二年生です。 力が入らなくて、字を書くのもむずかしいです。いまにもしんでしまいそうです。けど、書いておこうとおもいます。 へやから出られません。 もう百日ぐらいおなじ日がつづいています。 まい日が五月二十七日の日よう日です たすけてください。 お父さんはいません。まえのおうちにいます。 お母さんは、あさおきたらいませんでした。 ぼくひとりだけです。 ひとりぼっちです。 まい日ほとんどおなじ天気で、おなじように一日がおわります。 テレビはつきますが、いっつもおなじのしかやってません。 やきゅうを見ても、だいたいドラゴンズがかっておわりです。 ニュースステーションも小いずみそうり大じんのことしかやってません。 なんかいもなんかいもこのへやを出ようとしました。 だけどなぜかできないんです。 げんかんもあかないし、まどもあきません。 おふろばのまどもだめでした。 まどのそとはよその子があそんでて、がんばってこえをかけました。 でも、その子たちはぼくのこえがきこえないようで、きづいてくれません。 フライパンをつかってかべをこわそうともおもいましたが、あまりにもかたすぎて、フライパンがまがってしまいました。でもつぎの日にはもとにもどっています。 こわれたものは必ず元にもどってしまうのです。 いやになって、あばれたときにこわしたテレビとか机とか、みんななおっていました。 火をつけてアパートをもやせばいいと気づいたときはとてもうれしくなりましたが、ざんねんなことにだいどころの火はつきませんでした。 れいぞうこの中はいつも食べものが入ってますが、おなじものしかないのでつらいです。 だからおなかがすくことはないし、ふとんでねられるからずっと生きていけるけど、ぼくの心はもうぼろぼろです。 そんなまい日でも、たまにすごくちがうときがありました。 たとえばドラゴンズが、ベイスターズにまけてしまう日がありました。 それをはじめて見たときは、やっと五月二十七日がおわってくれるとすごくよろこんでしまいました。 でも、目がさめたら五月二十七日でした。 1 井ばた 2 せき川 3 立なみ 4 ゴメス 5 山さき 6 井上 7 ティモンズ 8 中村 9 山本昌 ぼくはもうげんかいです。 生きているのがすごくつらいです。 どうしてぼくはここからでられないの? どうしてぼくはひとりぼっちなの? どうしてお母さんいないの? だから、しぬことにきめました。 水どうから水が出るのを見て、ぼくはきめました。 これからおふろに水をためて、わざとしのうと思います。 この手がみはほんとうはお母さんによんでもらいたくて、書きました。 お母さん、ごめんなさい。 その次の日はとても忙しかった。 手紙を拝見して二度びっくりした俺は、すぐに警察や学園といった関係各所に連絡をし、この不気味な事件について調べてもらった。 すると建物を管理している人間から、興味深い話を聞けた。 もともとこのアパートは双葉島の造成直後に建てられた古いもので、昔は移住してきた一般異能者家庭が住んでいた。 俺の部屋で暮らしていた、とある母子家庭があった。母親は子供を捨てて蒸発したそうだが、その後愛人とともに惨殺された状態で発見された。子供のほうは行方不明となっており、現在も発見されないまま今日に至る。 知るんじゃなかったと思えるぐらい、曰くつきの物件だったというわけだ。 あれから数日が経過した。手紙の件はアパートの住人に滅茶苦茶気味悪がられてしまったが、すぐに忘れてしまった様子で特に混乱は見られない。 手紙の内容は、今思い出してみてもぞっと寒気がしてくる。 部屋から出られない。毎日が五月二十七日。 どうしてAという少年はこんな目に遭ってしまったのだろう。ラルヴァもしくは悪意ある異能者の仕業にしか思えないが、自分がそうなってしまったらと考えただけで恐ろしい。たとえ俺がいくら考えても、部屋を出られるとは思えなかったから。 何より怖かったのは、無造作に並べられた人名。 あれは2001年頃の、中日ドラゴンズのスターティングメンバ―だ。 ということは、あの子は2001年の五月二十七日に閉じ込められたということになる。首相が小泉であることも納得がいく。 何はともあれ、行方がつかめないとはいえAは死んだのだ。この手紙がただ一つ残された証明だ。それを俺が発見した。 自分の部屋で起こった出来事なだけに、前とはうってかわって居心地悪いことこの上ない。ユニットバスで子供が自殺したというし、俺もいつこの部屋から出られなくなるか、などと思ってしまうと一日でも早く引き払いたくなる。 ……俺は現実から目を背けている。 Aが自殺によって生き地獄から解放されたのが、日焼けした手紙を見た後での認識である。周囲もそう思っている。 けど手紙を読む限り、そんなことはありえないことがわかるのだ。 何を思ったか俺は、まっさらな紙を取り出し、マジックで大きくこう書いていた。 「A、まだきみはそこにいるのかい?」 その紙を、もう一枚の紙とともに右の引き出しに入れておいたのだ。 俺は一体何をしようとしているのだろう。こんな意味の無い、わけのわからない行為に及んでいることが全く持って不可解だ。想像できるか? 十八年も同じ部屋に閉じ込められ、同じ一日を繰り返させられる苦痛を。 しばらくゼミやサークル活動に追われてすっかりそのことを忘れていたが、今こうやって古い机に座り勉強をしていて、ようやく思い出すことができた。机に紙を入れて三日経っていた。 本当、我ながらばかげている。 震える右手は、魔界に繋がる右の引き出しを開ける。 紙が一枚減っていた。 真っ白だった紙に、何か大きく文字が書かれている。 「たすけて」 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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第1実験場 名前: タイトル: 本文: テスト3 -- 管理人 2006-08-06 14 36 18 テスト書込み 名前 コメント テスト2 -- 管理人 2006-08-06 14 35 12 テスト書込み 名前 コメント テスト1 -- 管理人 2006-08-06 14 34 44 テスト書込み レス -- 管理人 (2006-08-06 14 35 34) 名前 コメント 過去ログ 1・2・3
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なにもないような【登録タグ 2019年 AO MIMI VOCALOID な 佐藤主税 初音ミク 曲 曲な 殿堂入り】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:MIMI 作曲:MIMI 編曲:MIMI 絵:AO MIX、マスタリング:佐藤主税 唄:初音ミク 曲紹介 眠れない深夜に何も考えずに軽い気持ちで作ったので軽い気持ちで聴いてもらえると嬉しいです。ふわふわです。(作者Twitterより) 曲名:『何もない様な』(なにもないような) 歌詞 何時しか落としてしまうくらい不安定な 微熱に隙間風だけが歌う様な 叶わぬ何かに気付けないこのままじゃ その癖言葉を飲み込んだ 分からないけど歩幅は測りづらくて 身に染みる雨だけが影を濡らすのに 掴みたいそれを手の隙から見つめて あの音が今も忘れられないんだ 目に見えぬ背負った日々は 確かに此処に在るのにな 言葉が形を成してゆく そう思ったのになんで捨ててしまうの 今日も響かないベルを鳴らす 読み切れぬページを隠してさ 零れる雫に気付かない ことにして瞳を閉じたんだ 時がただそこで揺れるだけ 心に落ちてく小さな静けさ そこで黙って文字は世界を伝えて 夜が何も返さずに揺らいでく 中身のない話をしてよ良いから 涼しい風が今も 何かを満たせない感情の奥を見た 様な今日を隠したくて 秘密の音が続くたびに 落ちない汚れがどこか痛むの 呑まれていった露の様な 愛をただただ唄いたいだけ 問いかける声昨日も明日も 無口な今日は答を応えない ならいっそ何にもない世界の隅で そうやって変わらず吹かれてたい …だけ コメント 最高。綺麗だ -- 名無しさん (2019-03-11 22 33 23) イントロから素晴らしい -- 名無しさん (2019-03-16 20 07 41) 大好き -- 名無しさん (2021-03-20 13 53 18) 一番好き -- 名無しさん (2024-03-05 11 38 37) 名前 コメント コメントを書き込む際の注意 コメント欄は匿名で使用できる性質上、荒れやすいので、 以下の条件に該当するようなコメントは削除されることがあります。 コメントする際は、絶対に目を通してください。 暴力的、または卑猥な表現・差別用語(Wiki利用者に著しく不快感を与えるような表現) 特定の個人・団体の宣伝または批判 (曲紹介ページにおいて)歌詞の独自解釈を展開するコメント、いわゆる“解釈コメ” 長すぎるコメント 『歌ってみた』系動画や、歌い手に関する話題 「カラオケで歌えた」「学校で流れた」などの曲に直接関係しない、本来日記に書くようなコメント カラオケ化、カラオケ配信等の話題 同一人物によると判断される連続・大量コメント Wikiの保守管理は有志によって行われています。 Wikiを気持ちよく利用するためにも、上記の注意事項は守って頂くようにお願いします。
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実験 戦闘力チェッカα 多量の独断と偏見の混じった戦闘力チェッカです。 1vs1にしか対応していないので、闘技場休止中の今は何の意味もないですが、 闘技場が再開したところで何か意味があるのかも微妙です。 お遊び程度にどうぞ。 Wikiの都合でダウンロード画面が出てしまいますが、 開く、でご覧下さい。
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とくに断りが無い限り以下の条件での測定結果とする AC0,ネク無し,ベルト有り 基本攻撃実験 攻撃魔法実験 演奏攻撃実験 属性倍率実験 自然回復実験 自殺技性能まとめ メドソウル・暗殺撃・クレショ実験 ダルマアタック・クヤン神功・ダラミルゴング実験 無影神功実験 名前 コメント
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204 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] 投稿日: 2008/08/02(土) 01 57 26.76 ID 56PiawAO 新ジャンル「幼女980円(税)」 実験SS 世界中を旅して歩き回っている俺は、今夜の宿を探していた。 月明かりで仄かに照らされた石畳の道を歩いていると、怪しい男に声をかけられた。 怪しい男「ちょいとそこのお兄さん」 ??「……ん、俺か?」 怪しい男「そうさ。ちょいと珍しいモノがあるんだが、みていかないかい?」 ??「珍しいモノ?」 怪しい男「ま、ま、その物騒な刃物に手をかけないで、黙って付いてきな」 ??「………む」 警戒はしたもの、ついでに宿が見つかればいいと思い、怪しい男に付いていった。 205 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] 投稿日: 2008/08/02(土) 01 57 59.60 ID 56PiawAO 導かれた先は、暗く不気味な光を発するオンボロ小屋だった。 男は先に小屋に入るように促した。 中には、暗幕のようなものに覆われ、先ほどの光を漏らす何かがあった。 怪しい男「ほぅれ………、これだよ」 男は光が微かに漏れ出す暗幕を取り払った。 視界が急に明るくなった。 その内眩しさに慣れ、光の中のモノを見た。 ??「これは………」 噂には聞いていた。 人の形をした人ならざるモノ。 清楚可憐な殺戮人形。 男を求めさまよう性奴隷。 それはホムンクルス───人造人間の一種で、“幼女”と隠語で呼ばれるモノだった。 206 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] 投稿日: 2008/08/02(土) 01 58 27.49 ID 56PiawAO 怪しい男「どうだい、この私の“作品”は」 ??「………………」 男が感想を求める。 俺は声を出せなかった。 “幼女”に魅入っていた。 “幼女”は硝子の箱の中に、緑色の発光する液体の中に目を閉じて寝そべっていた。 姿は隠語の通り、人間の女児のようであった。 髪は肩まで伸び、、発光液でよく分からないが、美しいブロンドのように見えた。 水の中にもかかわらず、人よりは遅い周期ではあるが、呼吸もしていた。 怪しい男「どうだね……… 欲 し い か い ?」 ??「……!」 今度は男の声がはっきり聞こえた。 まるで、その言葉を待ちわびていたかのように、脳の中に入ってきた。 首が勝手に、縦に振っていた。 207 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] 投稿日: 2008/08/02(土) 01 59 00.87 ID 56PiawAO 男は嬉しそうに俺に話しかけた。 怪しい男「お代は血を一滴……、それと980円(税)だよ」 ??「………なんだそれ」 怪しい男「さあ、私も知らぬ。秘術書には、契約者は一滴の血と“980円(税)”を払う、そう書かれていた」 意味が分からなかった。 980円(税)。 “ぜいこみきゅうひゃくはちじゅうえん”と発音するらしい代償は、生憎持ってなかった。 怪しい男「一説によると、古代の流通貨幣と解釈されるらしいがね。あくまでも一説だが」 ??「古代の流通貨幣、ねぇ………」 その言葉を聞き、無意識に俺の両手は財布を探し始めた。 俺はこの小さな化生を欲していた。 208 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] 投稿日: 2008/08/02(土) 01 59 31.14 ID 56PiawAO いかほどかの価値かも知らぬので、路銀の大半をこの怪しい男にくれてやった。 ??「………これでどうだ」 怪しい男「ふふ、毎度あり………」 後は、血。 俺は腰に下げた片手半剣を抜き、左手の親指に傷を付けた。 そして左手を、“幼女”の眠る硝子の水槽の上に置いた。 赤い雫が垂れる。 ───ピチャリ 209 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] 投稿日: 2008/08/02(土) 01 59 55.99 ID 56PiawAO たった一滴の赤が、“幼女”を包む緑色の発光液を赤黒く染めた。 同時に、僅かに見える“幼女”の指先がピクリと動く。 水面から膝と思われるものが覗いた。 硝子水槽の真ん中から両手が現れ、縁を掴んだ。 そして、“幼女”の頭が赤黒い水の中から持ち上げられた。 目は、とうに開かれていた。 綺麗な翡翠色だった。 風呂に浸かっているように見える“幼女”は、俺を見た。 『アナタガ、私ノゴ主人ネ───?』 “彼女”の初めての声は、問いだった。 210 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage] 投稿日: 2008/08/02(土) 02 00 20.61 ID 56PiawAO ならば答えてやらぬ訳にはいかぬ。 ただ一言、「そうだ」と答えた。 彼女はにっこりと微笑み、俺に手を伸ばす。 俺はその手を取り、彼女を立ち上がらせた。 すると彼女の手が俺の首に回され───軽く口づけを交わした。 『コレカラ宜シクオ願イシマスワ、ゴ主人』 「……あぁ」 契約は完了した。 振り返ると、男はいつの間にか居なくなっていた。 新ジャンル「幼女980円(税)」 実験SS ~終わり~ 366 名前: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 投稿日: 2008/09/11(木) 01 55 56.57 ID JT6PtIAO 実験SS単発ネタその2 夏もそろそろ終わりに差し掛かろうとするある日のこと。 雲一つ無く、何処までも広がる青い空。 膨大な光と熱量を放つ太陽は、南の空のど真ん中に居座っている。 その下の大地を這い回る生き物は、ほぼ例外なく暑さにやられて緩慢な動きをしている。 心地よさを施してくれる風は、これっぽっちも吹いていなかった。 一方屋内では、扇風機やクーラーといった文明の利器の恩恵を得ることが出来る。 しかし、それは万人に与えられる物ではない。 恩恵から溢れた者は、団扇などの薄っぺらい板状の物で扇ぐという原始的な方法を取らざるを得ない。 その場合、手首の運動によっては疲労と共に少しずつ熱が蓄積していく。 多量の風を生み出すと、疲労と汗が溜まる。 かといって微弱な風は、暑気を払うには圧倒的に足りない。 「あづ………」 この少年もまた、熱地獄に悩まされる者の一人である。 彼は学生の身分であるが、この日は休校日。 久方ぶりに惰眠を貪ろうとと思ったら、この猛暑である。 気づくと、寝汗は酷く、衣服を搾れば雫が滴りそうだった。 寝覚めが相当不快なものであったのは言うまでもない。 367 名前: 実験SS 投稿日: 2008/09/11(木) 01 57 12.55 ID JT6PtIAO 先述のように、彼は冷房器具の恩恵を受けられない。 具体的には、クーラーは5日前に故障した。 その当時は、暑さも段々和らぐだろうと楽観し、修理には出さなかった。 扇風機も有るには有るが、クーラーより前に故障しており、やはり修理していない。 残されたものは、団扇以外に何もなかった。 「死ぬ………」 言葉とは真逆に、駆け足で冷蔵庫へと向かった。 冷蔵庫の扉を開け放つと、肉や野菜がお出迎えし、昨夜の残り物が留守番をしていた。 脂が白く固まった、惣菜の豚の角煮だった。 残念ながら冷たい飲み物は無かった。 冷凍室を見ても、氷はひとかけらも無く、製氷皿は空っぽだった。 「………ゔぁ」 悲鳴ともうめき声とも、断末魔とも思えるノイズを発し、少年はばったりと倒れ込んだ。 が、フローリングの床は意外と熱を持っており、数秒後には上体を反らすこととなった。 368 名前: 実験SS 投稿日: 2008/09/11(木) 01 58 10.89 ID JT6PtIAO 時刻は真昼を少し過ぎ、太陽も本気を出すアップを始める頃。 少年は意を決し、軽くシャワーを浴びて汗流す。 そして灼熱地獄の中、近くのコンビニへと向かう支度を始めた。 狙うは、軽食と冷たい飲料。 外の熱気を覚悟して、玄関の戸を開けた。 「ぅゎ………」 光を遮る物が無い外界は、熱風のような空気と矢のような光線が支配していた。 それでも進まねばならぬ。 進まなければ、この暑さから逃れられる術を得ることができないからだ。 少年は、コンビニへと続く道を歩き始めた。 369 名前: 実験SS 投稿日: 2008/09/11(木) 01 59 16.95 ID JT6PtIAO コンビニがすぐそばに見える曲がり角に差し掛かろうとしたとき、少年は電柱の下に見慣れぬ物が有るのを見つけた。 近寄るとそれは、晴天には似合わぬ、大きな黒い傘であった。 その下には、赤く大きな字で“拾ってください”と書かれた段ボール箱。 何が在るのだろうと、好奇心が働いた。 傘をよけて、中を見てみた。 「………あ」 そこには、汗ばみながらもうたた寝をする、可愛らしい幼女がいた。 水色のワンピースとピンク色の靴を身につけていた。 最近まで飼われていたのか、それらはあまり汚れていなかった。 赤毛色の髪の毛はまだ、毎日手入れされているようにサラサラだった。 幼女から発するほろ甘い匂いに、少年は思わず息をのんだ。 370 名前: 実験SS 投稿日: 2008/09/11(木) 01 59 58.26 ID JT6PtIAO 少年は幼女を見るのは初めてではなかったが、間近で見ることはあまり無かった。 野良の幼女は警戒感が強く、触ろうとすると逃げるか噛みついてしまう。 しかし今、目の前にいる幼女はすやすやと眠っている。 それも、幼女ショップでは一介の学生が到底手を出せない、綺麗で可愛らしい幼女が。 (……まあ、撫でるくらいなら大丈夫か?) 試しに、側頭部に束ねられた髪を撫でてみようとし───。 『……うぅん』 ───起きてしまった。 幼女が寝ぼけ眼を擦りながら、少年を見た。 やがて、大きな瞳をぱちくりとさせ、首を傾げた。 凝視。 「あ、あはは……」 少年は苦笑するしかなかった。 伸ばした右手は、幼女のサイドテールの根元に触れかけている。 さくらんぼのような飾りのついたヘアゴムが、かつんと音を立てた気がした。 『あなた、私を飼ってくれるの?』 371 名前: 実験SS 投稿日: 2008/09/11(木) 02 00 41.58 ID JT6PtIAO 「………へぁ?」 間抜けな声が出た。 いきなり何を言い出すんだこの幼女、と少年は思った。 『ねえ、飼ってくれるの?』 幼女の瞳は爛々と輝いている。 不安など微塵も無いような、期待に満ち溢れた瞳だった。 しかし、少年は返答に窮した。 別にペット飼育を禁じてる訳ではない。 両親が二、三ヶ月前から海外出張で、少年は家で一人暮らしという、所謂sneg状態。 だからというわけではないが、ペット大歓迎ばっちこーい体勢なのである。 しかし実際世話をするとなると、どうも面倒くさそうだと思ってしまうのだ。 幼女を飼う情熱というか努力というか、それが足りないと感じた少年は、腹を決めた。 「すまんな、ウチは幼j───」 クキュウゥゥ……… 『あ』 「………………」 幼女は容姿に違わぬ、可愛らしい音を生む腹の虫を飼っているようだった。 372 名前: 実験SS 投稿日: 2008/09/11(木) 02 01 25.41 ID JT6PtIAO 『ホントに何でも選んでいいの!?』 「……財布の中身を考えてくれよな」 結局少年は、幼女をコンビニにまで連れてきてしまった。 少年の口から、はぁ、と溜め息が出てしまう。 バイトの給料日や、海外の両親からの仕送りが思考を埋める。 だが店内に入ると、それは体に帯びた熱と共に消え去った。 幼女との邂逅で忘れていたが、炎天のコンクリートジャングルの中を進んでいたのだった。 その中に点在するコンビニは、まさにオアシス。 砂漠の中の泉の如く、冷房の有り難さをしかと受け取る。 『それじゃあ、選んでるねっ!』 「おー」 幼女がお菓子の棚に駆けていくのを見送った少年は、サンドイッチの吟味を始めるのであった。 373 名前: 実験SS 投稿日: 2008/09/11(木) 02 02 20.58 ID JT6PtIAO 「お会計980円(税)でーす」 代金を払い、大きな袋を持って二人はコンビニを出た。 冷房に当たっていたためか、来たときよりも更に暑く感じた。 少年はペットボトルの飲料を一口飲み、キャップを閉めた。 その後、ボトルは中指と薬指でキャップの下を挟み込む。 幼女の方はというと、最中(もなか)のアイスにカプリと食らいつく。 縦に2列、横に6列に別れた最中は、最初の横一列が噛みちぎられた。 「美味いか、それ?」 『うん! 美味しいよ!』 なんて、少年は平凡な問いを投げかけた。 少年はゆっくり帰路を歩き、その横を幼女が、とてたた、と擬音が付きそうな歩調でぴったりとついて行く。 やがて、幼女が眠っていた段ボール箱のところに───。 『あ、そう言えば私を飼ってくれるかの件なんだけど』 それじゃあここでお別れバイバイ、と持っていきたかった少年は、膝と両手を着いてうなだれた。 しかし、アスファルトの地面は結構な熱を持っており、数秒後には上体を反らすこととなり。 (あれ、デジャヴ?) 出発前にも似たようなことがあったなぁ、と思ったりした。 374 名前: 実験SS 投稿日: 2008/09/11(木) 02 03 04.26 ID JT6PtIAO 『ねぇ、どうなの?』 出会った時に尋ねられた事を、少年は再び問われた。 最初は寝ている幼女を起こさぬよう、少し撫でてみたい、と思っただけだった。 それがどういう訳か、食事をあたえて、少しだけど話をして。 今では一緒に暮らしてもいいかな、と思っている。 (どーせ帰っても一人だ。出費が少し増えることくらいなんともない………はず) 「ああ、お前を飼ってやる」 少年は答えを示した。 すると、幼女の顔が瞬く間に、ぱあっと明るくなっていった。 『ホント!? やったー!! 今日からよろしくね、ご主人様!!』 少年は軽く笑い、 「ああ」 と、照れくさそうに返した。 (“ご主人様”ねぇ………) 375 名前: 実験SS 投稿日: 2008/09/11(木) 02 04 33.03 ID JT6PtIAO 家への帰り道、太陽が本気で活動をする頃。 少年と幼女が手をつないで歩いている。 出会いからまだ30分程度しか経っていないが、お互い既に心を開いている。 その姿は楽しそうで、それはまるで、年の離れた兄妹のよう。 願わくば、この二人に幸あれ。 実験SS単発ネタその2 終
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アカ実験用 実験用です。はい。 投稿 8月13日 実験です。 8月13日 実験
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実験 Jikken 海老名夕がかっこうに手渡したディスクに録画されていた映像。 Cの能力とディオレストイの欠片を使って、欠落者の蘇生を試みていたらしい。 ディスク録画時では『特別環境保全事務局中央本部、甲種“は”六実験第四期』と言っていることから別種の実験もあると思われる。